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達磨 ― 其の弐



さて、家に帰ると、六畳間に設えられた床の間とは名ばかりの、狭い床の間もどきの所に達摩を置いた。
そして、買ったからには、人様並みのことをしようと思い、墨を摺って、達摩の片目を黒く塗った。
願掛けはとくには無かったのだが、何もしないのもつまらない気がして、何か好きなものを作っておくれと達摩に祈念した。
私は物に愛着が無い。
物を粗末にするわけでもないが、どうでんこうでん、これでなくてはいけない、そういった物が無い。
茶碗が欠ければ欠けたで、新しいのを買う。鞄の底が抜ければ抜けたで、新しいのと交換する。父から貰った万年筆も、ペン先を変えて使ってはいたが、いよいよ螺子が緩んでインクが漏れるので、新しい物を購入した。
何でもがそんな具合だ。こればかりは無くては困る、壊れてはかなわぬ、そういったものが自分には無い。
だから、女が別れたいと言ったときにもあっさりと別れた。あっさり過ぎて冷たいと言われたが、別れたいというものを引き留める気持ちが私には判らない。
やれ九谷の碗が割れた、やれ高級革の鞄が駄目になった、やれ舶来の万年筆が壊れてしまったと言って、嘆き悲しむ、そういう気持ちを味わってみたい。
軽い気持ちでそう願い、そう願をかけた。



そして、一年という月日はあっという間に過ぎていった。
達摩を買ったときの私は、無職同然のうだつの上がらない契約記者だった。
今は小さな出版会社に席のある身分になっている。この会社に採用されたとき、私の頭には七転び八起きという言葉が蘇っていた。しかし、それは頭の片隅をよぎったにすぎず、何に関連してこの言葉が出たのかさえ、思い起こすことは無かった。



一年が過ぎ、昨年と同じような新年を過ごした。今年は達摩売りの親爺とは出会わなかった。ただ、それだけのことだった。

ある日、町内会の回覧板にお焚き上げのことが載っていた。
昨年度の縁起物は神社の境内で燃やすのだという。
私が達摩を買った神社だった。
振り返ってみても、私に何か愛用品ができたというわけはなく、所詮は気休めの縁起物に過ぎなかったなと思い、私は少し笑った。
そして、達摩をお焚き上げに持っていくことにした。
何年も飾り続けるのも、何か節が無くて嫌な気がしたからだ。



さて、お焚き上げが行われるという日曜日。私は達摩を抱えて、家を出ようとした。
そのとき、何ともいえず不思議な心持がした。
達摩を燃やしたくない…。
達摩のいなくなった床の間もどきの場所は何とも寂しく、私は達摩を元の場所に戻した。
七転び八起きか…。
そう思ったとき、何かが頭の中で閃いた。
私はこの達摩に愛着心を持っている。
願が叶ったのだ。
そうか、そうか、お前はそんな風にして私の願いを叶えてくれたのかい、少し気抜けしながら、私は達摩の頭を撫ぜた。

そして、心願成就したからにはと、再び墨を摺り、達摩のもう一方の目も黒く塗った。







ここまで読んでくださってありがとうございましたm(__)m
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釣堀奇談

幼いころ、家の近くに釣堀があった。
父は、子どものお守りを押し付けられると、私を連れてよくそこへ行った。
私も釣りをしていたのだろうか。
そもそも、父は釣りをしていたのだろうか。
記憶、が、無い。

腐ったような小さい木戸を開けると、忽然と現れる、そんな場所だった。

久しぶりに生家に帰った。
釣堀は、まだあった。
木戸を開けると、小さな小屋があり、そこで釣竿とバケツを貸してもらった。

水にはうっすらと膜が張っている。風が吹いても、さざ波一つ立てるでも無い。

「いるのかい。」
私は尋ねた。
「いるよ。」
小屋の中から声がした。

私は釣竿を水面に向かって投げやった。
チャポンと静かな音がした。しばらく、膜の上を彷徨っていた錘は、やがて、ゆっくりと水の中に吸い込まれていった。

空は灰色。
周りを見やると、木戸も小屋も、雑草さえもが灰色に見える。
昔からこんな景色だった。
そう思いながら、ぼんやりと水面に視線を落とす。

何一つ、動く気配は無い。
でも、いるのだというからには待つしかない。

ときどき、小さな引きはある。それは戯れに餌をつつく魚なのか。
生家に来て、魚に弄ばれるとは面白い。
まったく私の人生じゃないか。
私は自嘲気味に思いながら、ズボンのポケットをまさぐった。
煙草は忘れてきたらしい。
良いさ。
煙草があろうとなかろうと、時間だけはあるのだから。

煙草の代わりにポケットに入っていた文庫本を取り出すと、私は続きを読み始めた。
いったいどれ位、時間が経ったのだろうか。
周りの景色は先ほどから変わらない。
客は私一人。
管理人も小屋からは出てこない。
まったくもって、愛想の無い店主と客である。

さっき付けた餌は、もう無くなっているかもしれない。
餌を新しくしよう。
そう思い、釣竿を上げようとしたとき、何か抵抗する手応えがあった。

ゆっくりと釣竿を上げ、釣り糸をたぐる。
釣針の先には、思わぬものがひっかかっていた。

これは、父の顔ではないか。
そうか、私がここに来るまで、ここで、こうやって待っていたのか。
私は、父の顔をバケツに入れた。

今日の釣りはこれでお仕舞にしよう。
私はバケツを持って、小屋へ行き、釣ったものの代金を払った。

管理人の親爺が、
「珍しいものを釣りましたね。」
と言いながら、ニヤニヤしている。
私は、
「そうかね。」
とバケツの中を覗きながら、返事をした。
「この季節にこういう代物はなかなか出てきませんや。旦那と馴染みが深いんですかね。」
親爺がなおもニヤニヤしながら言うのが、面倒臭く、
「さあ、どうだったか。」
と適当にあしらって、父の顔をビニールの袋に入れてもらった。



父の顔をぶら下げながら、これをどうしたものか考える。
どうせ、帰りの途中に墓がある。
そこに納めてくるとしよう。

私はあちらこちらの店を覗きながら、ぶらぶらと歩いた。
そうだ、煙草を買っていこうと思い、煙草屋に立ち寄る。
小さな窓から煙草を受け取り、ふと、横を見ると路上で何かを売っている者がいる。
青いビニールシートの上に、何やら広げてあり、婆さんが店番をしている。
興味半分に眺めていると、婆さんがこう言った。
「うちの庭で採れた青梅だよ。」
「ほう、そうかい。」
私は言いながら、しゃがみ込んで、梅を一つ手に取って眺めた。
「随分と小さいね。早生なのかね。」
私がそう言うと、
梅に早生も何もあるもんかね、命日ぐらいは覚えておくもんだよと、婆さんはぼそぼそ言いながら、私の手から梅をひったくった。

仕方なく、私は立ち上がると、また、ぶらぶら歩き始めた。
どこかで寺の鐘の鳴る音がした。
もうすぐ日が暮れるのだろう。

墓地に着いたころには辺りも薄暗くなっていた。
私は我が家の墓石をずらして、父の骨壺の横に父の顔を置いた。
それでも、まだ、隙間があるので、不思議に思っていると、父の顔が喋りはじめた。
骨壺の中をあらためよと言うのだ。
私は父の骨壺を開けた。
頭蓋骨が入っている。
これは、どういうことだろう。
私は煙草に火を点けて、煙草を吸おうとした。
ところが、口が見当たらぬ。
ああ、と得心した。
今日は私の命日だった。
私が墓の中に蹲ると、墓は丁度良い広さになった。
昔から、父とは瓜二つだねえと、良くいわれたものだったと思いながら、私は静かに目を閉じた。












今回は、短い物語調の散文詩を書いてみました。

で、落とし噺なのですが、この詩を書いていて思い出したことがあります。

一家で高知県に行った話はどこかで、書いたと思います。
そのときのことです。
とにかく、夜空がきれいなので、夜の浜辺へ散歩をしてゆっくり楽しもうということになりました。
浜辺にシートを引いて、宿の奥さん心づくしの料理を並べ、
さあ、食事!というとき。

弟がうわーッと泣き出しました。

「空の星が水疱瘡みたいで気持ち悪い!!おうちに帰りたい!!」

確かに、手が届けばじゃらじゃら引っ掻いて落とせるような星、星、星。

弟は水疱瘡が治ってすぐのこと。

そんな他愛もない思い出話でございます。

ここまで読んでくださってありがとうございましたm(__)m
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プロフィール

suffii

Author:suffii
文学少女でした。
現在は本を読むより、音楽を聴くほうが多いです。
好きなのはロック。
昨年よりボイストレーニングとエレキギターの練習を始めました。
気ままに書く詩や日常の忘備録です。

趣味ですが、文字に触れること、音に触れること以外に着物を着ることが大好きです。
伝統にのっとりきちんと着ることも好きですが、着崩す面白さにも最近、目覚めました。
着物にハイヒールでエレキ弾きます。


お時間があったら、覗いてみてください。

そんな奇特な方はいらっしゃらないとは思いますが、無断転載はご遠慮ください。

それから、できれば拍手をよろしくお願いします。
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