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達磨 ― 完 -

そのころから、私は度々不思議な夢を見るようになった。
両目が開眼した達摩を抱えた達摩屋の親爺が七転び八起き、七転び八起き、と唱えながら、私をじっと見つめているのだ。
最初は親爺も控え目に、小さい姿で出てきていたのだが、回を重ねて現れるうち、その姿はでかくなり、ついには私を押し潰さん勢いとなってきた。
そうなると、おちおち寝てもいられない。
あるとき、私は夢の中で親爺に問うてみた。
何故、そうそう夢に現れる。お前に不義理を働いた覚えは無い。何か言いたいことでもあるのかね。
親爺は片目でにんまり笑い、
「旦那、なにしろ達摩が開眼しちまったからねえ。七転び八起きなんだよ。達摩が、さ、開眼してるじゃないか、旦那。」
そのあとは、何を聞いても、七転び八起きさ、七転び八起きさ、これを繰り返すだけだ。
ふと、気が付くと、親爺が抱えている達摩も親爺の目玉そっくりに、にんまり笑っていた。
その日は、起きて見ると布団が寝汗でぐっしょり濡れていた。
枕元の達摩を見ると、気のせいだろうが、微笑んでいるように見える。
私は何だか恐ろしくなり、晒で達摩の目を隠してしまった。
達摩は白い鉢巻がずり落ちたような情けない姿になった。



私はそれ以来、なるべく達摩を見ないことにした。
親爺も達摩の夢の中に出てくることは無くなった。
なんだかほっとしながらも、心の片隅では、目隠しした達摩の存在が不気味であった。しかしながら、今さら捨てる勇気も無く、達摩はそのまま埃にまみれて行った。



それから二、三年経った頃だと思う。
会社での私の役割も少し上がり、目下の面倒も見るようになった。
そんな折り、数人の同僚や目下の者が狭い我が家に遊びに来ることになった。
男一人の手狭な家である。何のもてなしもできるわけでもないが、酒があればそれで良い、そういう連中が集まった。
その日は、朝から、まるで毛虫の毛をちらしたかのような細く鋭い雨が絶え間無く降っていた。
天候には関係無く、酒の席は盛り上がり、だんだんに無礼講の様子を呈してきた。
目下のものが達摩を見つけ、何で目隠しをしているのかと問うた。
同僚の一人が岡本綺堂の猿の面かねと囃し立てた。
私は言葉を濁し、曖昧な返事をするだけだった。
と、とりわけ陽気な一人が、達摩を目隠しなどしていたら、これからの見通しが皆無になるぞと言い出した。
そして、晒を取ろうとした。
私は慌てて止めようとしたが、多勢に無勢、みなが酔いに勢いづいて晒を取れ取れと騒ぎ立てる。
酒の席で不気味な夢の話をするのも気が引けて、私は同僚のなすがままを止めることができなかった。



晒を取ってみると、そこに不思議が起こっていた。本当に不思議なのかと問われれば、断言はできない。しかし、私にとっては確かに一つの不思議に違いなかった。
墨で塗ったはずの達摩の目が両方とも白くなっていたのだ。墨は晒に吸い取られたらしい。
同僚は、もう一度願掛けができるぞと笑っていたが、私は何やら胸が蓋がるような、嫌な気持ちになっていた。
その日の酒宴は無事にお開きとなり、私は白目の達摩を見なように気を配りながら、床に就いた。



再び、変な夢でも見るのではないかと心配していたが、そういったことは無く、元来、神経の細かい私の性格がただの邪推をしていたものかと思われた。
ただ、一月経つ頃から、なんとなく辺りがぼんやりと霞んで見えるようになって来た。最初は疲れのせいか、根を詰めて記事を書き過ぎたのか、或いは、記事の下調べに多少の資料に目を通したせいかと、深く考えることはなかった。
ところが、二月、三月経つうちに、向い合せで座っている同僚の顔までぼやけてきた。
眼医者に行ってみたところ、眼球に以上は無く、ただの近視でしょうと言われ、眼鏡を作るように勧められた。
ある一定の年齢で急に近視が進むのは良くあることです。そう言われ安心をした。
眼鏡屋で眼鏡を誂えてもらうと、生活に不自由はなくなった。
ところが、それから一月経つか経たないかのうちに、すぐにその眼鏡は役立たずになった。
眼鏡を掛けていても、辺りは靄がかかったようにぼやっとしている。
私は再び眼医者に行った。
眼医者は暗い部屋でひとしきり私の眼球を観察した後、眼球には異常は無い、どうして視力が低下しているのか判らないと言った。
新しい眼鏡を作るしか手はないが、これ以上、霞みが重大になったら失明と変わらぬ状態になるだろうと、首をかしげながら私に宣告した。



私は失意を抱えながら家路に着いた。
部屋に入って、真っ先に目に入ったのが、真っ赤な達摩だった。
大きな白目を剥いた真っ赤な達摩だった。
そのとき、私は自分の未来を確信した。



翌日、早速に会社には退職願を出した。
そして、完全に視力を失う前に手に職を付けようと思い、按摩に弟子入りした。
幸い、私は筋が良かったらしく、三年かかると言われたところを一年で独り立ちを許された。
独り立ちのお墨付きをもらった日、私の頭の中では七転び八起きという言葉が木霊していた。



「さあ、旦那、今日はこれで仕舞です。
ゆっくり、布団から起き上がって、座ってくださいませ。
最後に背中を整えますので。
七転び八起き、七転び八起きと…。
どうです、少しは体が楽になったでしょうか。
はい、そうですか、お褒めに預かり光栄でございます。
旦那のおっしゃる通り、私は凡記者でいるより、按摩で身を立てた方が向いているようでございます。
いえいえ、気分を害したのではございません。
私自身、そう思っているのでございます。
七転び八起きでございます。
按摩の身の上話を聞いてくださって有難うございました。
この辺にお立ち寄りの際には、また、ぜひご贔屓にしてやってくださいませ。
旦那、人生は七転び八起きでございますよ。
はい、それでは、これで、おいとまさせていただきます。」



私は杖を頼りに家に帰る。
一仕事終わった日には、達摩を片手に、一人杯を傾ける。
これが、至福のときである。


ここまで読んでくださってありがとうございましたm(__)m
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No title

鍵コメの皆様

それぞれにお楽しみいただいて有難うございました。

皆様の貴重なご意見を参考に、少しずつですが、進歩していきたいと思っています。

少なくとも後退しないようにがんばります(笑)

皆様、コメントありがとうございました。

suffii

17日に読み終えてからと言ふもの、

ず~っと心に引っ掛かっていたコトなんですが、つい先ほど瓦解しまして。

いや、なに…。

その…、今、杯を傾けて居る達磨。
両の目がパッチリ見開いているような、そんな気がするもんでね。

次の年明けには、達摩売りも居るかと☆
プロフィール

suffii

Author:suffii
文学少女でした。
現在は本を読むより、音楽を聴くほうが多いです。
好きなのはロック。
昨年よりボイストレーニングとエレキギターの練習を始めました。
気ままに書く詩や日常の忘備録です。

趣味ですが、文字に触れること、音に触れること以外に着物を着ることが大好きです。
伝統にのっとりきちんと着ることも好きですが、着崩す面白さにも最近、目覚めました。
着物にハイヒールでエレキ弾きます。


お時間があったら、覗いてみてください。

そんな奇特な方はいらっしゃらないとは思いますが、無断転載はご遠慮ください。

それから、できれば拍手をよろしくお願いします。
超初心者ですが、訪問してくださる方がいること、
とても励みになっています。

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